アトピー症状の悩み共有
仙台市の派遣社員のA男さん(40)は、子どもの頃からアトピー性皮膚炎の症状に悩まされてきた。
アトピー性皮膚炎は、かゆみのある湿疹が繰り返しできるアレルギー疾患だ。
治療は、皮膚を清潔に保ち保湿するスキンケアや、炎症を抑える薬物療法などが基本だが、現状では完治することは難しい。
国の調査によると、患者数は2017年で3万3000人に上る。子どもだけでなく、大人にも多い。
A男さんも長年、炎症を抑えるステロイド剤の塗り薬を2か月に1回、かかりつけ医に処方してもらい、治療を続けてきた。
悩みのタネは、相談できる相手がいないことだった。近くに患者会もなかった。
トラウマになった出来事がある。アトピーではない知人に、かゆみや炎症が続
く皮膚の症状の悩みを話した。「きたない」。そう言われて、傷ついた。
そんな時、インターネットで、アトピー患者向けスマートフォンアプリ「アトピヨ」を見つけた。2年ほど前のことだ。
アトピヨは、患者が匿名で患部の写真や症状を投稿し、治療経過などを共有することで、孤立しがちな闘病を支え合う。
A男さんは「写真を見せる相手もアトピー患者なので安心して投稿できる。『あなたもつらいのですね』と共感しあえるのがいい」と言う。
アトピヨは、Ryotaro Akoと名乗る公認会計士で、プログラマーの男性(41)が、薬剤師の妻らの協力を得て開発。米アップルのアイフォーン用の無料アプリとして18年7月に配信を始めた。
自身も、子どもの頃からアトピーやぜんそくなどアレルギー疾患があった。
アトピーは成長と共に改善したが、15年9月にハウスダストによるアレルギー症状で救急搬送された。
これを機に参加したアレルギーの患者会で、先が見えない治療に悩む人たちと知りあった。「良くなった人はどんな経過をたどったのか」。
多くの人がそんな情報を求めていた。アトピヨ作りのきっかけになった。
アトピヨは、これまでに約1万5000人にダウロードされ、投稿画像は約2万5000枚に上る。20年には、経済産業省主催のジャパン・ヘルスケアビジネスコンテストで優秀賞と特別賞を受賞した。
京都大学病院皮膚科講師の中島沙恵子さんは「投稿した写真を医師に見せれば、症状の経過が分かり、診療の質向上にもつながる」と評価する。
ただし、「アプリで知った治療法は自身に適切か分からないため、医師に相談してほしい」と注意も呼びかける。
Ryotaroさんは「アトピーは人に話せず一人で悩む人が多い。アプリが前向きになるきっかけになれば」と話している。
読売新聞 20210113掲載記事